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『営業マネジャー原論』

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第一部 営業人生に悔いなし
スピード感の違いは文化の衝突だった 、

…1年たった頃、全社の部課長研修が行なわれました。リクルート自身が開発したRODというプログラムで、自分自身の部課長としてのリーダーシップを振り返る。日頃の仕事ぶりを、自己評価と部下、上司の評価を事前に採点し、研修では相互比較してギャップを討議するというものです。これを2泊3日の合宿でやるわけで、私の自己評価はそんな毎日でしたからよいわけがありません。私自身の自己評価はもちろん、部下・上司のスコアも最悪です。当然の結果なのですが、それでも私にはショックでした。グループ討議では私の無能ぶりがあぶり出され、グループのメンバーが四方八方から私を責めたてたものです。
打ちしおれた状態で研修から戻った私の頭の中には、この転職は失敗だったのじゃないか、商品に愛着が持てない、これはコンピュータの仕事よりもレベルが低いんじゃないかと、さまざまな「辞めたい」理由探しがうごめいていました。しかし、それでもしばらくは、自分をだましだましの日々が続きました。

最初からマネジャーだったことに原因
こうした思いに耐えられなくなり、とうとう担当取締役のもとへ、「すみません。辞めて責任を取ります」と告げに行きました。私の話を聞いていた取締役がさり気なく、 「寺さん、『とらばーゆ』(当時の女性向け情報誌)の1ページって売値いくら?」と聞いてきました。
「さあ…、50万円くらいでしたっけ?」
ガツン!思い切り頭を叩かれました。いや、本当に痛かった。
「自分の売る商品の値段もうる覚えで、何が出来ませんなんだ!甘ったれるな!」
と担当取締役の叱声が飛んできました。やることやってから出直して来いということだったんですね。言い訳になりますが、人間というものは悪くなると思考回路がどんどん塞がっていくんです。売れない、思うように出来ない、何のための転職だったのか、いろんな思いが錯綜しまくって抜け道のない袋小路に入っていく。 「もう辞めたいなあ」
頑張ろうという気が起きない。そこへ、思い切り頭を叩かれて、
「もう一回頑張ってみよう!」という気持ちになりました。

リクルートでのスタートを振り返ってみると、私は最初からマネジャーでした。マネジャーですから、初めから部下がいました。それが問題だったのです。仕事そのものが分かってないくせにマネジャーなのですから。分かっていたのは前の会社の、前職でのマネジメントまで。業界の営業特性なり、やり方すら分かっていなくてマネジャー面していた自分がそこにいたのです。
そこで心機一転、一兵卒の営業としてやってみることにしました。一番社歴の長い部下に、「どうやって営業をやるんだ?」と、とんでもない上司ですが、教えを乞いました。部下からテレアポのやり方を教わって何十社か電話したところ、ようやく1件訪問アポが取れました。原宿にあるファッション事務所で来てくれというのです。さっそく訪ねて、この会社からはあっさり広告を受注したのですが、営業マンの仕事はそれで終わるわけではなく、広告を制作部門に発注し、出来上がった広告案をお客さんに持って行き、OKをもらう。そして広告効果を測定して報告するところまで。それで1回きりのお客さんで終わるか、リピートをもらって長く縁が続いていくかが決まります。
こうした営業を重ねていくうちに、だんだん仕事が分かってきました。それまでは(制作部門に特有の服装のあまりの自由さ、ラフさに馴染めず)口を聞くのもイヤだったタンクトップの女性ライターから飛び出してくるキャッチフレーズのなんと的確なことか。短時間で仕事をこなしていく彼女たちの、なんという職人技。一方で若い営業マンが広告の効果が芳しくないと広告主から罵倒されても、なおも食らいついていく、なんというタフなことか。そういうものが見えてくるにつれて、なるほど、と思うことばかり。
たまに自分で広告原稿をつくってプロの制作スタッフに見てもらうこともありました。 「寺岡さん!読むのは若い女性ですよ。センスないです」とか言われて、それまで読んだことのないファッション誌を買ってきて勉強することもありました。つくづく思ったのは、本当に部下のやっている仕事を分かっていなかったということです。
私は連日、部下たちに「スゴイな、おまえ」を連発していました。

よくよく考えてみると、私はこれらのことをリクルートに足を踏み入れた1年半前にやっておくべきだったのです。そこをやらずして、一足飛びに目標達成ばかりを追っかけたから、営業の神様はここらで一度懲らしめておこうとお考えになったに違いありません。私は目標達成を果たすどころか人生を考え直すところまで追い込まれてしまっていたのです…。