アメリカ海軍に学ぶ「最強のチームのつくり方」

マイケル・アブラショフ 三笠書房「知的生き方文庫」¥600+税

われわれは一人ひとりが「艦長」なのだ(寺岡 晟)


時間ができると、書店へ立ち寄り、目ぼしい本を物色するのが僕の日課のひとつである。いつも顔を出す書店の本棚を物色中、何気に文庫コーナーを覗いたとき、平積みに陳列されているこの本のタイトルに目が向いた。

『アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方』。

…軍隊式のリーダーシップの本かなぁ?

でも、帯に書いてあるコピーに興味が湧いた。

曰く「こんなに『泣けるビジネス書』はなかった!」

曰く「人の心を動かし、成果を倍にする法」

何とも刺激的な言葉が連なっているではないか。

ここは、騙されたと思って読んでみよう!と購入に至った次第である。そして、僕はその夜、一気にこの本を読んだ。

この本の大まかな内容はこうだ。

…米海軍イージースミサイル駆逐艦ベンフォールド(USS Benfold, DDG-65は、排水量8,362屯。 乗組員:士官、兵員337名。1996年就役)は乗組員の士気もひどく、米国海軍にとって、やっかいものの軍艦だった。

そのベンフォールドで艦長として1997年から1999年までベンフォールドの艦の指揮を執ったマイケル・アブラショフが、退役後、ベンフォールド艦長時代のエピソードをまとめ、執筆したのが、この本で、アメリカでベストセラーになったという。

僕は、研修を通じて様々な企業の管理職、取り分け営業所長と接する機会が多い。

どの企業の営業所長の方々も営業マン時代の実績を買われて、営業所長の任に着かれている方が多い。

しかし、営業所長になってから、思うようにその能力、経験が活かせない方も多いのが実態である。

具体的には、「リーダーシップの執り方」「マネジメントの進め方」で課題を抱えて悩んでいる方がかなりの比重を占めている。

取り分け、「営業所として一体感不足」あるいは「共通の目標が見出せない」「個々の部下メンバーとのやり取りで終始していて、閉塞感を感じる」などの声を耳にすることが多い。

要は、「チームとしての営業所つくりができない」ことが大きな課題となっている。

そのような課題を抱えた営業所長にとって、この本はリーダーにとって大切なことを気づかせてくれる。

本の中からいくつか抜き出してみる。

「あなたは、部下を知っていますか?」

まず、私がしたのは、艦にいる全員の名前を覚えることだった。

これは、決してたやすいことではない。

何しろ、わずか一か月で310名の名前と顔を一致させるのだ。

そして私は、艦にいる部下一人ひとりと面接をし、皆への期待を直接伝えようと決めた。

思いついたその日から早速とりかかり、一日に5人の部下と一対一の面接を始めた。

この面接の結果が自分とチームに何をもたらすのか、最初からわかっていた訳ではない。

わかっていたのは、自分が艦の環境と雰囲気を変えたいと強く望んでいる、ということだけだった。

私は、名前や出身地、結婚しているかどうかなど、極めて基本的な質問から始めた。

子供はいるのか?いるなら名前はなんというのか?(やがて、私は乗組員の名前だけでなく、彼らの子供の名前まで知るようになった)

それから、自分たちの職場であるベンフォルドについて尋ねた。

いちばん好きなところは?好きでないところは?変えられるとした何を変えるか?

もっと立ち入った質問もした。

高校時代に何か特別な思い出はあるか?故郷を離れてどんな思いがするか?

私は、彼らに海軍での目標を持っているか、とも尋ねた。

生来の目標は?そして海軍に入った理由を聞いた。

そのときまで、私は皆がどうして入隊してくるのか、という理由を知らなかった。

話を聞いてみると、若い部下の大半は大学に行ける経済的余裕がなかったために入隊していたことがわかった。

また、まともな働き口が見つけられず、無職でいるよりは・・・とチャンスを求めてやってきた部下も多かった。

中には、幼い頃に両親を失い、遠い親戚に育てられたという若者や、両親がギャンブル依存症で借金ばかりを繰り返しているという者もいた。

部下たちの多くが、豊かさとはまったく無縁の環境に生まれていたが、全員が

自分の人生を意義のあるものにしようと務めていた。

皆、善良で、正直で、勤勉な若者たちだ。

彼らは尊敬と称賛を受けるのに値する者たちなのだ。

こうした面接の結果、私の中で何かが変わった。

部下たちをとても尊敬するようになり、もはや彼らは、私が命令を怒鳴りつけるだけの「名もなき連中」ではなくなった。

私と同じく希望や夢を愛する者たちであり、自分のしていることに誇りを持ちたがっていた。

そして、敬意を持って接してもらいたいと願っていた。

私は、彼らの最強の応援団長になろうと思った。

部下のことを知り、尊敬しているこの私が、どうして彼らに手ひどい扱いができるだろうか?どうして彼らを見捨てられるだろうか?

僕は、自著でも研修の場でも、部下との個人面談の重要性をしつこく語っているが、海軍でもそうなのか!という新鮮な驚きと共に大いに共感できる内容だった。

Q「あなたは、部下の誕生日を知ってますか?関心を持ってますか?」

もうひとつ、紹介したい。

「命令では人は動かない」

至極当たり前のことだが、「海軍は軍隊である」

ということは、そこに所属するすべての軍人は階級という上下関係が基盤となっている。

言い換えれば、「命令で人を動かす組織」である。

このことに対して、マイケル艦長は自戒を込めて物語っている。

「上司は自分が行うあらゆる決定や行動を通じて、部下にどう活動すべきかを教え込まなければならない。そのうえで、部下の行動の責任を取る姿勢が必要なのだ。

わたし自身は、自分が思うような結果を部下たちから得られなかったときには、怒りをこらえて内省し、自分がその問題の一部になっていないか、どうかを考えた。

① 目標を明確に示したか?

② その任務を達成するために、充分な時間と資金や材料を与えたか?

③ 部下に充分な訓練をさせたか?

こうして自問を行った事柄のうち、実に90%が、少なくとも当の部下と同じくらい私も原因があったのである。

この教訓に対する最も鮮明な記憶がある。

ある水兵が自分の任務である監視中に居眠りをしてしまったことがある。

これは極めて重い罪だ。

見張りが眠ってしまったばかりに、艦隊が全滅する可能性だってある。

その若い水兵は呼び出され、艦長から、なぜ監視中に眠ってしまったのか、理由を尋ねられた。

水兵は汚れた職場を徹夜で掃除をしていたのだと応えた。

では、なぜ彼は徹夜で掃除をしなければならなかったのか?

その持ち場の責任者が、午前8時までにやっておくようにと命じたからだ。

艦長はその責任者に尋ねた。

「なぜ君は、その作業にもっと時間を与えてやらなかったのだ?」

「部門長にそうするように命じられたからです」

私は、この話がどこに向かっているのか直ぐに悟り、冷や汗をかき始めた。

艦長が部門長の方を向き、部門長は私の方を向いて言った。

「副長(当時の私のこと)が午前8時までにすませるように、とおっしゃったからです」

彼らがそんなにも人手が足りず、誰かが徹夜までしなければならないとなどと、どうして副長の私が知り得ただろうか。

実のところ、私は知っておくべきだったし、少なくとも、それが問題のある指示だということ、部下たちが私に言えるような関係を築いておくべきだったのである。

艦長は今回の一件を取り下げた。

私は間抜けな上司そのものだった。

これ以降、私は命令を明確にし、それを行う時間と設備を与え、それを部下が正しく行うための適切な訓練を受けていることを確認しない限り、もう二度と命令を口にすることを心に誓った。

それが、指示を出す際の最低条件なのである

命令をすることはいけないのでなく、状況をしっかりと把握した上で命令を発すること、併せて日頃から部下との関係を大切にして、命令に盲目的に服従を求めるのではなく、意見具申を遠慮なく部下が言えるような関係づくりの重要性が見出される内容だ。

これ以外にも「部下を誉める大切さ」や「意志決定の絶対的基準とは」などをエピソードを交えてわかりやすく語っている。

最後にこの言葉で結ばれている。

「リーダーの役割として「管理すること」よりも「いかに才能を育て、伸ばすか」が大切で、すべての人が一致団結して目標に立ち向かうことができると確信している。

最後にもう一度言っておこう。

「われわれは一人ひとりが「艦長」なのだ。」

組織のリーダー、営業所長必読の書である。