「Trial and error トライ&エラー:試行錯誤」
この言葉を知ったのは、僕が19歳の夏でした。
当時、紅顔の美青年(笑)だった私は、アメリカはロザンゼルスの南カリフォルニア大学のサマースクールを受講するために、アメリカの地にいた。
それも1人っきりでのアメリカである。
今の時代から考えると船で異国へ行くのはクルーズ船くらいで、海外旅行は飛行機を利用するのが当たり前だが、当時は横浜から定期船がアメリカとの間に就航していたプレジデントウィルソン号という客船に乗り、太平洋を2週間かけて横断し、ロサンゼルスに上陸。
そこで初めての外国であるアメリカでの生活がスタートした。
夏休み期間中、大学の学生寮は空室で(夏休み期間、寮生は帰省しているため)、その部屋が僕のサマースクール受講中の仮の住処となった。
2人部屋のパートナーはアメリカ中西部のミシガンから来た米国人学生のJimだった。
彼はミシガン州立大学大学の学生だが、夏休み期間中、どうしても個々の大学で学びたいことがあるとかで、聴講生としてサマースクールのプログラムを受講していた。
「Trial and error」はそのときのことである。
ワクワクドキドキしながらのアメリカ生活がスタートしたが、朝起きて眠るまで英語、英語の世界だ。
講義を聞いていてもさっぱり理解できない、質問しようとしてもどう表現してよいかわからない、宿題の意味を理解するまでに時間を要し、いざ宿題に取り掛かる頃には時計は既に午前だ。
友人がいる訳でもなく、さりとて休日に街へ出かけるにはクルマを持っていない。
四面楚歌とはこのことか!
19歳の僕は完全に壁に当たってしまった。
入寮して2週間目の土曜日のことである。
ベッドにひっくり返ってテキストを漫然と読んでいたら、Jimがどこから戻って来ていきなり声をかけてきた。
「テリー(僕の名前のテラオカが発音しにくいので、彼は勝手に僕を、そう呼んでいた)、これからサンタモニカへ海を見に行くぞ!友達からクルマを借りてきたので一緒に行こう!」
気乗りのしない僕は「Thank you! But to refrain from tired ありがとう!でも疲れているから遠慮するよ」と断った。
するとjimは「I’m saying nothing. If you go to Santa Monica Beach look Japan! And get ready now! 何を言っているんだ。サンタモニカビーチに行けば日本が見えるぞ!さぁ、支度しろ!」
否応なく僕はJimに引っ張られてサンタモニカビーチへ向かった。
30、40分フリーウェイを西に走ると、目指すサンタモニカビーチに着いた。
余談だが、Jimが運転するクルマは相当前の時代物のフォードでボンネットの所々が赤錆びていたり、アチコチに凹みがあり、窓ガラスも何年も拭いた形跡のないスゴいクルマだった。
Jimとビーチに降りていくと目の前には太平洋が拡がっていた。
この海の先に日本がある!そう考えると何だか目頭が熱くなってきた。
Jimが突然声を挙げた。
「Terry! Look Japan! Mt. Fuji. See Tokyo. See Terry’s dad and mom!
Wow! See also her Terry テリー!日本が見えるぞ!富士山も見える。東京も見える。テリーのお父さんもお母さんも見える!おお!テリーの彼女も見える」
「どこ、どこ?」僕は笑いながら太平洋を見つめた。
「It’s over there! Look, eh? あそこだよ!よく見えるだろ?!とJimが笑いながら指を指す。
ようやくJimが僕をサンタモニカビーチに連れ出した意味が分かった。
「Thank you, Jim! I saw Japan, thanks to Jim. Came out fine. I do my best!
ジム、ありがとう!ジムのおかげで日本が見えた。元気が出てきた。頑張るよ!」
「OK now do you? もう大丈夫?」JとJim。
「I’m okay! 大丈夫!」と僕。
その時だった。
今でも鮮明に思い出すJimの言葉だ。
「Terry, It’s trial and error! I’m English I don’t know Terry is now here.
Still more, try more and more. And try again error. Yesterday from today, tomorrow than today. And hey, it’s trial and error.
「テリー、トライ&エラーだよ!英語がわからないからテリーは今、ここにいるんだよ。じっとしているより、どんどんトライしよう。そして何度もエラーしようよ。昨日より今日、今日より明日だ。さぁ、トライ&エラーだ。」
この言葉をJimは何度も繰り返して、僕が理解するまで。
「Thank you, Jim! Force sprang.
I’m glad Jim in the dormitory. You’ll enjoy the school life by trial and error from tomorrow ジム、ありがとう!力が湧いて来た。寮でジムに出会えて良かった。
明日からトライ&エラーでサマースクール生活を楽しむよ」
そのときのJimの返事が良かった。
「I’m OK, next week in the dormitory on Friday dance party Terry participated and have fun! You’ll find a lovely partner! And why come together on the Santa Monica Beach! OK,じゃ来週金曜日の寮のダンスパーティーにはテリーも参加して楽しもう!可愛いパートナーを見つけろよ!そしてサンタモニカビーチに一緒に来ようぜ」
早速の高いハードルをつくられた。
それからのサマースクールでの講義やブレーンストーミング、寮での生活、もちろん週末のダンスパーティーもエンジョイすることができた。
もちろん、そう簡単に英語が出来た訳じゃない。
ただ違うのは、何をやるときも「Trial and error トライ&エラー」の言葉を唱えて行動することが出来るようになった。
以来、今日まで僕の価値観のひとつが「Trial and error」となった。
今の僕の仕事が企業人向けの教育研修だが、受講生にもよく「Trial and error」を口にすることが多い。
始めから上手くいくような仕事はない。
だからやってみようよ!
やってみて失敗したら「あ、この方法はダメなんだ。」がわかるので、また別な方法でやってみる、この繰り返さなければが、日本語では「試行錯誤」そして「Trial and error」。
若者の特権であり、象徴でもある「Trial and error」をドンドンやろう!
★今、現在Jimはシカゴに住み、リタイアして悠々自適の生活だ。サンタモニカビーチから49年経った。