内定者研修で見た若者たちの力

 

なかなかどうして、若者たちはたくましい。

毎年のことだが、ここ10年以上、僕は企業への内定が決まった若者たちへの内定者研修を行っている。

研修の目的は、3つ。

 

1つは内定者同士の相互理解だ。

わかりやすくいうと、研修を通じてお互いの名前と顔を知り、親しくなることにある。

2つ目は、チームワークを発揮して締め切り時間までに

課題(同時期に開催されているお客様の業界展示会を見学取材して、写真にあるような「見学体験新聞」)をA3両面で制作する。

そして、3つ目は競争意識の向上だ。

チーム別に制作した「見学体験新聞」を経営トップにプレゼンを行い、

その出来栄えとプレゼン力を競い合うことで、達成感を体感することにある。

この3つの目的を果たすための4日間が内定者研修だ。

 

10月の内定式以降も採用が続くので、この内定者研修で全員が顔をそろえるのは初めてとあって、初日に集まってくる若者たちの顔を見ると一様に緊張している様子が読み取れる。

チームごと(あらかじめ、6名/チームに振り分けている)のテーブルに置かれた自分の名前が記された名立ての前に座った。

声を発するものはいない。

これから何があるんだろう?不安と好奇心がない交ぜになった若者たちだ。

「10分後に研修がスタートします!それまでお互い雑談をしながら紹介でもし合ってみたら」と声をかける。

しばらくはシーンとしているが、誰かが口火を切るとワァーという感じで一気に研修室が賑やかになった。

それこそ、北は北海道、南は九州の全国の大学から集まってくるのだから飛び交う言葉も様々だ。

やはり関西弁は大きい声だ。

すると関東、東京の声もそれに続いて声が聞こえてきた。

どこかのチームの席で笑い声が起こった。

拍手をしているチームも現れた。

研修室内にエネルギーガ湧き起こり、命が吹きこまれたようだ。

アイドリングとしてはまずまずの立ち上がりである。

内定者研修のスタートだ。

初日は、全国から集まることを考慮して午後3時研修スタート、18時終了のため3時間しかない。

研修の冒頭に僕は若者たちにこう要望した。

「研修の中身はこれから話しますが、その前に皆さんに約束して欲しいことが3つあります。先ず、『元気な声を意識して出すこと』です。次に『元気なアイサツをすること」です。

そして『時間を守る』ことです。どうです、簡単でしょう!?」

研修室内はシーンとしている。

もう一度繰り返した。

「よろしいですか?」と再度問いかける。

相変わらず返事の声があがらない。

「皆さんの中で、自分の声は元気だ、大きいと思っている人はいないか?いたら挙手」

それでも研修室内はシーンである。

「皆さんは遠慮深いね。じゃ私から指名しよう。Aさん、起立してください」

突然の指名にA君は、エ、僕!?という表情で立ち上がった。

「Aさん、みんなに元気なアイサツと元気な声出しの模範をやってみよう!」

「私の後に続いて声を出してください!」

「こんにちは!」と私。「ハイ、Aさん同じようにあいさつしてください!」

「こんにちは!」蚊の鳴く声が聞こえる・

「Aさん、今の声の5倍の声でもう一度」

「こんにちは!」「お!さっきより大きい声が出たね、さすがだ!じゃ、今の声の3倍」

「こんにちは!」元気な声が研修室内に響いた。

「Aさん、合格!皆さん、拍手!」

仲間たちの拍手に照れくさそうに笑みがこぼれた。

「じゃ、Aさん、その声をみんなが出せるようになるようになるまで練習を講師としてやってください。お願いいたします。」と私。

A君は、「ということですので、みなさん、元気な声を意識して出してください。僕の後に続いてください」

「全員、起立してください!」A君は中々のリーダーシップを発揮している。

「では、『おはようございます!』」元気な声だ。

「おはようございます!」と全員が続く。

「ダメダメ、今の声の3倍!」A君、さすがだ!

「おはようございます!」みんなの声が出てきた。

「その調子!もう一度」すっかり講師になり切ったA君だった。

A君のおかげで研修室の空気はそれまでの沈滞したそれから活き活きした空気に一変した。

そして、明日からの研修内容、スケジュールの説明の後、各チームからリーダーを選出。

4チームの体制が整った。

やはり、A君は先ほどの「声出し」のリーダーシップが評価されたのか、リーダーに選出された。

チームリーダーの役割は、最終日の「見学レポート『明日の業界展示会の見学取材を通じて見出したことを新聞形式のレポートにまとめる』」をチームメンバーの総力を挙げて期限までに完成させ、社長へのプレゼンを行うことが最大の使命であること。そのためにメンバーの役割分担、何を中心に見学取材を行うか、をチームメンバーと話し合って方向を決め、行動をスタートすることだ。

ある意味、4日間通じてのリーダーであるから責任は重いものがある。

でも若者たちはどのチームも楽しそうに明日の見学取材の作戦を話し合っている。

空気が弾んでいるのが伝わってくる。

そして2日目、朝9時に会場ロビーに集合。

それぞれのチームが指示されないのにミーティングを開いている。

やる気満々が読み取れる光景だ。

10時会場オープン、先ずは自分たちが2か月後に入社する会社のブースへ引率し、先輩社員たちへの挨拶から1日が始まった。

去年の新入社員たちが堂々と商品説明や接客をやっている。

「寺岡先生、お久しぶりです。今年の新人たちはどうですか?」

「おはよう!元気そうだね。君たちよりも間違いなく優秀だよ」

元気な笑顔が返って来た。

内定者たちは、それから4時間、広い会場内を歩き回って見学取材を行った。

時々、彼ら彼女らとすれ違ったとき、「どう?順調に進んでいる?」と声をかけると、

「段々と慣れてきて、いろんなメーカーの方々に声をかけるのが楽しいです」

「僕が学生なので軽くあしらわれました。」

様々な言葉が返ってくる。

あっという間に集合時間となった。

集合場所に行くとリーダーがそれぞれ「Aチーム全員そろってます!」「Cチームは1名F君がトイレです。後は全員います」

リーダーの仕事をしっかりやっているのが頼もしい。

帰社後、各チームは見学取材で収集した各社のカタログやチラシ、写真データの取り込み、メモ用紙のリライトなどをチームワークよろしく取り掛かった。

そして研修3日目、「見学レポート」制作のヤマ場となる1日だ。

朝9時、朝礼は内定者の中から希望者に司会を委ねることにしていて、N君が手を挙げた。

15分間を自由に使って、元気の出る朝礼を行うのが司会者の役割と伝えると、N君は暫し考えて「それではラジオ体操を行います。僕の後から同じように元気な声を出しながらやりましょう!1、2.3、ハイ」

最初は中途半端な声だったが、「声が小さい!」とN君が言うと、大きな声が出るようになった。

研修室内は1,2、3という具合に元気な声が響くようになった。

体操が終わると、昨日の展示会の感想が数人から発表があった。

「この業界がこんなに大きく、沢山の企業があることを知って驚いた」

「AIがこんなに応用されていることを初めて知った」

「夏休みにたこ焼き屋でバイトをやっていて、お前の焼くたこ焼きは美味い!と店主にもお客さんにも誉められたけど、自動たこ焼き機なんて子供だましだと思っていたけど、

残念なことに自動たこ焼き機の方が、自分がつくるたこ焼きより美味かった。表面はカリッとして中はトロッとした自動たこ焼き機に負けました」

大爆笑だった。

朝礼で全員のボルテージも上がり、いよいよ制作開始だ。

ホワイトボードに制作進捗プロセスの行程表に都度、制作工程が記入されていく。

制作のコンセプト、読者ターゲット(誰に読んで欲しいか?)、台割、写真、記事、などのアイテムが表示され、そこへ着手、テスト版、チェック、完成のマークが入る。

「みなさんの発想、企画力で自由に制作してください。途中で質問、相談があれば大いに歓迎です。よろしいですか!?」

「ハーイ」と元気な返事が返ってきた。

研修初日とは雲泥の差である。

そして最終日を迎えた。

 

Gさん(最終日の司会は女性)の司会の朝礼は「各チームの優勝宣言」だった。

ウチのチームこそトップになる。いや、ウチだ!。

元気な優勝宣言が飛び交った。

午前中は「見学レポート」の最終チェックと最終修正だ。

それぞれのチームの「見学レポート」の初版刷り、2版刷りがホワイトボードに掲げられる。

その前で、皆異口同音に「ウチのがいい」「これはにくい表現だ」等々かしましい。

午後は、本番に備えてプレゼンの予行練習。

各チームが交代でスクリーンの脇に立ち、挨拶からスタートし、パワーポイントで制作の意図、読者ターゲット、そして作戦会議から見学取材、制作過程までのプロセスを写真や図柄、

そして、見学レポート制作を通じて、自分たちは何を学んだか、をプレゼンするものである。

新聞の出来映えも中々のものである。(写真参照)

いくつかのアドバイスを与えて予行練習は終了。

そしていよいよ社長の登場である。

何と社長の奥様が、ぜひ見学させて欲しいと、たっての希望でお二人での登場となった。

サプライズである。

各チームプレゼン時間は10分間、この3日間の努力の総決算である。

トップバッターはAチームからだ。

司会役の私が「大変お待たせいたしました。2019年度内定者研修のハイライト「展示会見学レポートの発表です。今年度は新聞形式のレポートです。全員、よく頑張って制作しました。みんな、自信あるか!?」

「ハーイ!」元気な声が返ってきた。

いよいよ本番である。

あっという間に4チームのプレゼンが終わった。

休憩時間を挟んで社長からの講評である。

「素晴らしいで出来映えです。4チーム共に甲乙つけがたい出来映えです。そしてプレゼンが実にわかりやすく、元気にやってくれました。みなさんの入社が楽しみです。

4日間、ほんとうにお疲れさまでした。ありがとう!」

 

後で、内定者の感想文を読むと、「夜は宿舎のホテルの部屋に集まって原稿を作成したり、内容で意見をぶつけ合ったり、アイデアを出し合ったりしながら、仲間意識、同期意識が高まった。この会社に入るのが楽しみです。」等々。

そして、もっとも多い感想は「この4日間で僕は(私は)少し成長したように実感します。

社会に出る不安はまだあるけど、ワクワクするものが増えました。元気に入社します」

若者たちは多くの「伸びしろ」を持っていることを改めて実感した4日間でした。

皆、意識せず、元気な声が出るようになりました。